賃貸マンションを経営している方、これから経営を始めようとする方にとって、管理会社選びってとても重要な問題ですよね。そもそも物件オーナーにとって良い管理会社とはどんな会社なのか、ということをあまり吟味せずに、管理料の安さ、会社の規模、知名度…そういったものさしで管理会社を選んでいる方も多いように感じます。
しかし、実際に管理品質を左右する本質は、驚くほどシンプルな問いかけで見抜けます。
その問いとは、「月に何回、物件に行っていますか?」という一言です。
この質問への答えを聞くだけで、その管理会社がオーナーの資産とどれほど真剣に向き合っているか、問題の芽をどれだけ早期に察知できる体制なのか、そして入居率を維持するための実務的な視点を持っているのかが、ほぼ丸裸になります。
なぜこの一言がここまでの判断基準となるのか。現役で賃貸管理に携わる筆者が、その理由を詳しく解説します。
現場に行かない管理会社は驚くほど多い
一般のオーナーからすれば、管理会社は当然のように物件を巡回し、清掃状況や破損箇所を確認し、入居者の様子を見てくれていると思うかもしれません。しかし現実は大きく異なります。実務に携わる者として断言できますが、「担当者がほとんど物件に行っていない管理会社」は、多くの人が想像する以上に存在します。
管理会社が現場へ行かない理由はさまざまです。
業務の効率化を優先し、巡回業務を完全に外注している会社もありますし、担当者一人あたりが抱える物件数が多すぎて、そもそも現地へ行く時間が取れないという事情もあるでしょう。管理料の安さを売りに、管理物件を増やしている管理会社には特にこの傾向が強いように感じます。
また、大手企業ほど分業化が進んでおり、「入居者対応の担当」「原状回復の担当」「巡回の担当」「契約の担当」と細かく役割が分かれていて、一人の担当者が総合的な目線で物件を見ることができない体制になっているのが現状です。
この構造は一見合理的ですが、結果として「オーナーの物件そのものを誰も正しく見ていない」状況を生み出します。新築、築浅の物件であれば、それでも良いかもしれません。しかし築年数が経ち、市場のトレンドと物件の中身にギャップが生まれている物件であれば、建物の価値を上げるためのリノベーションの提案や大規模な修繕工事の提案を管理会社の方からしていく必要があります。にもかかわらず、現場を見ず、机上の報告書だけで管理している状態では、問題の発見が遅れ、改善提案も形だけのものになりがちです。
オーナーが物件へ行くたびに「管理会社の人影を全く見ない」と感じているなら、それはほぼ確実に現場巡回ができていない証と言えるでしょう。
筆者自身、管理物件の巡回をしていると、物件に住んでいるオーナー様と鉢合わせることがあります。それは決して珍しいことではなく、むしろ頻繁にあります。「前の管理会社の時には担当者に会ったことなんてなかったのに、フドーさんはいつもいますね」なんてお言葉をいただいたこともあります。
管理会社の“現場主義”は、結局のところ担当者の足の運び方に表れます。実際に物件を見続けることでその物件の変化を肌で感じることができ、トラブルの兆候にもすぐ気づけます。オーナーに対する提案内容や判断の質も、現場へ通っている担当者とそうでない担当者では天と地ほどの差が出るものなのです。
現地に行かないと話せないことは数えきれないほど多い
物件の状態は、遠隔で見ることができるものばかりではありません。むしろ、現地に行かないと絶対に気づけないことの方が圧倒的に多いものです。
募集中の部屋に異臭がしていないか、植栽が伸びすぎていないか、共用廊下に私物を置く住人がいないか、ゴミ置き場の利用状況…
こうした変化を書類や写真だけで察知するのは難しいもの。現地に何度も行って初めてわかる“空気の情報”です。
空室になった部屋にいかに良い家賃で早く客付けできるかというのは管理会社の手腕が問われることですが、内覧に訪れる仲介業者の視点を理解するには、実際にその立場になって歩いてみることが不可欠です。
エントランスが暗い、ゴミ置き場には不法投棄の粗大ごみでいっぱい、集合ポストにはチラシが散乱、宅配ボックスは満杯のランプがチカチカ…そんなマンションでは部屋を見る前から、「ここはないな…」なんて印象を持たれてしまいます。
部屋だってそう。いくらきれいにリフォームしていても、トイレの封水が切れて悪臭がしている、排水溝に虫が湧いて死骸でいっぱい、バルコニーには隣の住人のゴミが入り込んでしまっている…そんな部屋に住みたいとは思えないものです。
こうした異変にどれほど早く気づいて対処できるか、というのが良い管理会社とそうでない会社の違いになってくるのです。
“安かろう悪かろう”の提案になるか、“資産価値向上”の提案になるかは現場主義で決まる
管理会社の提案には、現場を見ているか見ていないかが如実に反映されます。
現場を見ていない会社は、基本的に「できるだけ安く」「最低限の修繕で」「オーナーに断られにくい提案」という“守り”の姿勢に偏りがちです。オーナーから断られにくい提案は、短期的には無難ですが、長期的には入居率低下につながる危険性があります。
一方、現場主義の管理会社は、設備や共用部の現状を自分の目で把握しているため、入居者から見て選ばれる物件にするための投資をポイントにした提案が自然にできます。
「ここは見栄えを良くすると効果が大きい」「この設備は今交換した方が空室対策になる」といった、具体的で根拠のある提案が可能になるのです。
例えば、エアコンの交換はその典型です。古いエアコンの部屋を内覧すると、入居希望者はほぼ間違いなく「設備が古い」という印象を受けますし、古いエアコンは性能の経年劣化から電気代も高くなります。昨今の電気代の高騰を受け、今まで以上に古い型のエアコンがついている部屋は敬遠するお客さんが増えているように感じます。
家賃7万円の部屋も、空室が1ヶ月続けば7万円の損失となり、エアコン交換費用とほぼ同じです。現場を見ていれば「交換すべきタイミング」が直感的にわかりますが、現地を見ずに管理している担当者にはその判断ができません。
宅配ボックス満杯・ポストにチラシの山…“行っていない物件”には共通のサインが出る
現地に行っていない物件には、非常にわかりやすい特徴が出ます。
物件内覧をする際にはゴミ置き場を見よ、なんて最近ではよく耳にしますが、確かにその通り。ゴミ置き場に手続していない粗大ごみがいくつも溜まっている、整頓されずに袋から出たゴミが散乱している…定期的な日常清掃では対処しきれないものが放置されていないか、入居者へのゴミ出しルールを周知できているか、ゴミ置き場はその物件の管理状況が如実に表れる場所なのです。
また宅配ボックスがいつも満杯で、入居者が利用できない状態が続いている物件があります。これは管理会社が現場確認をしないため、長期放置されている荷物の対処ができていないことが原因でしょう。
管理用ポストにチラシが溜まり続けている物件も珍しくありません。管理会社が最低限の巡回すらしていない証拠であり、管理用ポストがチラシが満杯になってはみ出ているのを、入居者から見れば「この物件は放置されている」という印象に直結します。
お客さんは管理されていない雰囲気に非常に敏感です。わずかな汚れや乱れでも、「この物件、やめておこう」と判断されてしまいます。管理会社が現地に行かないことによる影響は、目に見えない形で確実にオーナーの収益を削っていくのです。
大手管理会社ほど“現場に行けない”構造になっているという事実
意外に思われるかもしれませんが、一般的に大手管理会社ほど現場に足を運べない構造になっています。
理由は明確で、大手ほど多くの管理戸数を抱え、業務が極端に分業化されているからです。
入居者対応、修繕受付、所有者対応、家賃管理、契約業務などが担当ごとに完全に分かれており、担当者自身が物件を見に行く必要性を感じなくても業務が回るようになっています。結果として、「実際の現場を誰も見ていない管理」が組織として常態化していきます。
管理戸数が多いことは実績にも聞こえますが、その裏側で「物件を一つひとつ丁寧に見る」という姿勢が薄れやすくなります。
一方、中小規模でも優秀な管理会社は、担当者が定期的に現場を見て、オーナーの資産価値を高める提案を行い、細かなトラブルも未然に防ぐ現場主義が根づいています。この差は、入居率と収益に直結します。
まとめ
物件は“生き物”です。
手をかければ良くなり、放置すれば悪くなります。
管理会社が現地に通う頻度が高いほど、
・トラブルの早期発見
・見栄えの改善
・仲介業者からの評価向上
・入居率安定
・資産価値の維持向上
これらが当たり前のように実現していきます。
だからこそ、今の管理状況に疑問を感じたら、
管理会社選びに迷ったら、
「月に何回、物件を見に行っていますか?」
この質問への答えは、管理会社の姿勢を最も正直に映します。
現場主義か、机上主義か。
提案型か、消極型か。
資産を守る覚悟があるか、形だけの管理か。
すべてがこの一言に凝縮されています。
オーナーの大切な物件を預ける相手だからこそ、この質問を投げかけてください。
そして、返ってきた答えがオーナーの資産価値を左右する未来への指標となるはずです。
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